運動学習とリハビリテーション(<特集>運動学習) 道免 和久 バイオメカニズム学会誌 25(4), 177-182, 2001 以上のメカニズムを踏まえて、早歩きするメリットを考えます。 早歩きということは、フィードバック情報に使用できるほどの遅い速度ではありませんので、フィードフォワード制御を引き出して常に予期的な動作を実行することになります。 理学療法・作業療法士・リハビリテーションに関する様々な素材を情報発信していきますこの記事では、リハビリ(理学療法・作業療法)で馴染み深い用語である『フィードバック』と『フィードフォワード』に関して記載していく。 この記事を観覧することで、フィードバックとフィードフォワードの違いを何となく理解してもらえると思う。 目次 フィードバック・フィードフォワードは以下の意味を持つ。 フィードバックとは、ある目的のために反応を起こし(原因)、結果が目的と一致すれば終了し、一致しなければ修正するということ。すなわち、原因から導かれた結果を、原因に反映させること。  ある目標の達成のために結果から誤差を修正していくフィードバック制御に対して、ある目標の達成に向けて、常に変化する状況を情報として取り入れ、フィードバックせずに将来の変化を予測しながら方法を変化させていくことをフィードフォワードという。  もう少しピンときそうな解説として、『書籍: 新たに運動プログラムを作成しながらの運動遂行では、目的とする運動と遂行されている運動の誤差を検知し修正しながらの運動制御が行われることになり、 これをすでに作成され記憶された運動プログラムを使用するのは、運動学習が完成された状態と考えられ、この運動制御は   人間は『随意運動』によって運動を起こすのだが「運動が自分の意図したとおりに行われているか」の調節が必要であり、 この調整には「フィードバック制御」・「フィードフォワード制御」が関与している。  運動の制御にはその運動の速さにより「ゆっくりとした運動」と「早い運動」がある。 でもって、ゆっくりした運動は、運動による全身の変化を固有受容器や視覚からの情報を中枢に送り、そして再調節しながら運動を行っていく『 一方、運動が素早く行われるためには、運動する前から前もって運動の結果までが予測され、プログラムされているという『 例えば、姿勢制御では、外乱を検出してから反応するフィードバックだけではなく、あらかじめ予測される外乱大きさから必要な運動出力を決定するフィードフォワードが必要である。 ※フィードバック時間の遅れなどの理由により、フィードバック制御だけでは速い運動を制御することは理論的に不可能とされている(つまりフィードフォワード制御が必要)。   例えば、斜面を滑っているとき、前方に小さな出っ張りがあったとする。それに乗りあげて身体が後方に転倒しかけたとする。 その際、身体が動揺しない望ましい状態と実際に後方に動揺して転倒しそうになった状態との差を検知して、望ましい状態に戻そうとするのが『これに対して、運動に習熟した場合、出っ張りに乗りあげたときの身体の動揺すなわち外乱を予測し、それを打ち消すように姿勢を準備しておくことが可能となる。この例では、外乱による身体の後方動揺を相殺するために、出っ張りに当たった瞬間に身体を前方に傾斜させることになる。この場合の制御方式が『     例えば、「急な揺れが起こる電車」に乗っている場合を考えてみる。 電車が瞬時に激しく揺れた場合、「フィードバックによる姿勢制御」のみならず、揺れる前からの姿勢制御(フィードフォワード)、つまり「この電車は急に揺れる。その揺れはこの程度だがら、これくらい踏ん張らなくちゃ」といった外乱の予測が転倒しないためには重要となる。  ちなみに、立位姿勢で両側の素早い肩関節の屈曲を行うと、三角筋(前部線維)の収縮の前に、姿勢筋である大腿二頭筋や脊柱起立筋が収縮し、体の動揺を抑えるための予測的な反応が起こる。 ※この姿勢筋の反応がフィードフォワードであり、この点は『予測的姿勢制御』として以下の記事でも解説しているので合わせて観覧してみてほしい。 運動は遂行、修正され、ふたたび遂行の過程で学習されて、徐々に複雑な経路を介さ また、PNFを例にすれば「リズミックスタビライゼーション」と「スタビライジングリバーサル」の違いをフィードバック・フィードフォワードに置き換えると理解が深まるかもしれない。 ⇒ゆっくりした徒手抵抗(=フィードバック制御を利用) ⇒段階的に素早い徒手抵抗も利用(=フィードフォワードも利用)    運動指令は実際の運動となって出力されると同時に、運動の結果の予測を形成する。 この「運動の結果の予測(フィードフォワード情報)」と「実際の感覚フィードバック情報」が比較・照合され、誤差があれば、それに基づき運動指令が修正される。 脳はこの誤差を小さくするように、運動を学習していき、感覚フィードバックに頼らない予測的運動制御モデル(内部モデル)を脳内に作り上げる。 先ほどの電車の例では、「電車は、この程度揺れるものだ」というフィードフォワード情報を持っていたとして、実際の揺れが予想をはるかに上回るものであれば、あなたはバランスを崩しそうになるだろう(それでも何とか感覚フィードバック情報によって踏みとどまれた)。 つまり以下の2つに誤差が生じていたことを意味する。  でもって(重複するが)、脳はこの誤差を小さくするように、運動を学習していき、感覚フィードバックに頼らない予測的運動制御モデル(内部モデル)を脳内に作り上げる。 つまり、「この電車は、自分の予想をはるかに超える揺れを起こすのだな」といった『新たなフィードバック情報(予測的運動制御モデル)』を脳内に作り上げるといこと。  この様に、「フィードフォワード情報」と「実際の感覚フィードバック情報」が比較され、誤差があれば、それに基づき運動指令を修正・更新しながら学習していくことを『 この『フィードバック誤差学習』が繰り返されると、その運動について正確な内部モデルが構成され、正確な運動ができるようになるだけでなく、やわらかで(関節スティフネスが小さく)、なめらかな運動ができるようになる。 フィードバック誤差学習は、比較的運動時間が短く、正確さを要する熟練運動の運動学習をよく説明することができる。 ※フィードバック誤差学習を担う領域は、主に(頭頂葉や)小脳とされている。   運動療法との関連では、例えば なので、内部モデルで運動指令を計算しても、意図したしたとおりの運動を実現することはできない。 したがって、片麻痺が存在する状態で意図したとおりの運動を実現するには、それらの要素を含んだ内部モデルを構築し直す必要がある。 そのため、多様な運動課題を繰り返し練習して、内部モデルを再構築しなければならない。 ※多くの感覚フィードバックをリハビリで取り入れることで『フィードバック誤差学習』を起こすことは重要となる。   病態失認では、運動の意図もフィードフォワード情報も構築され、実際の感覚フィードバックも入力されるが、このフィードフォワード情報とフィードバック情報を正しく比較・照合することができなくなっている。 ※あるいはフィードバック情報と比較して、運動の意図やフィードフォワード情報が優勢となり、フィードバック情報が無視されるために生じると考えられている。  病態失認の詳細は、以下の記事も参照してみてほしい。    徒手療法の技術は練習を重ねることにより、それらパターンをあらかじめ大脳基底核、小脳歯状核や小脳中位核にプログラムし、随意運動を意図した時に直ちにそのプログラムによるパターンが発生するようになる。 初学者は内分出るがないのでフィードバックで学習を行う。※ フィードバックでは間違った分だけ修正がなされる。 一方で、熟練者はフィードフォワードを行う。※フィードフォワードでは「あらかじめこうなるだろう」と予測する。  過去の経験によって手に入れたフィードフォワードの内部モデルは小脳にあり、学習後はここからの命令によりフィードフォワードに切り替わる。 目標を持ち、それに近づいていこうとフィードバックを誤差学習によって繰り返し、内部モデルが形成されれば、その後はそれを使ってどうすればよいか予想される。 フィードフォワードが出来るまでには正しい技術の学習を何度も何度も繰り返して行わなければならない。 これは、身体を使ったすべての技術に通ずる心理である。 徒手療法の治療技術は、練習を繰り返すことで小脳で最良なパターンがプログラムされるようになり、その機構により治療が行われる。 そして、指導者によるフィードバック(指導者に施術してもらって、その施術を体験することも含む)がなければ、技術の向上はあり得ない。 少なくとも初学者は、徒手療法は教科書・動画を学ぶだけでなく、指導者のもとで実技指導を受けることは重要となってくる。 ※徒手療法の熟達者であれば、教科書や動画と、今まで自身が蓄積してきた徒手療法技術を照らし合わせることで(ある程度のものは)習得可能となるかもしれないが。  ここで解説した『教師あり学習(フィードバック・フィードフォワード)』以外にも学習理論は存在し、それらは以下の記事でまとめているので興味がある方は観覧してみてほしい。       この記事では、リハビリ(理学療法・作業療法)現場で用いられる『アライメント(alignment)』について解説していく。アライメントとは?アライメントとは以下を指す。骨・関節の配列のこと。例えば以下な ...この記事では、リハビリ歩行時に使用されることの多い用語でもある『トゥクリアランス(toeclearance)』について解説している。トゥクリアランスとはトウクリアランスとは以下を指す。「歩行の振り出し ...足部のアーチでは、内側縦アーチに着目して評価することが多い多くの評価方法があるが簡便な方法の一つとして「フェイス線(Feiss線)」を指標とした評価が簡便である。この記事では、そんな「内側縦アーチの高 ...この記事では『膝蓋下脂肪体(IFP:infrapatellafatpad)』について解説している。膝蓋下脂肪体とは『膝蓋下脂肪体』は「膝蓋靭帯の深層に存在する脂肪組織」であり、関節包内や滑膜外に存在す ...この記事では「膝蓋上嚢(suprapatellaporch)」をイラストで解説していく。癒着により屈曲制限を呈しやすい組織なのでイラストで理解してみてほしい。また、膝関節周囲の脂肪体についても「大腿骨 ...とある研修会で以下のような発言があった。Mobilizationという用語は以下の様に国によって発音が異なる。アメリカ⇒モビライゼーション他国⇒モビライセーションでもって、上記はどっちも正しいとの事。 ...早速だが、質問をしてみる。以下のうち、誤っているのはどれだろう?1.興奮は両方向に伝わる。2.興奮は太い線維ほど速く伝わる。3.有髄線維では跳蹴伝導が起こる。4.興奮は隣接する別の線維に伝わる。5.興 ...この記事では、有髄線維と無髄線維を解説している。神経線維とは有髄線維・無髄線維について記載する前に、神経線維について解説していく。神経線維とは以下を指す。軸索とそれを包む鞘を総合した名称でもって神経線 ...この記事では、神経線維に関する「構成」や、種類(伝導速度や閾値などによる分類)を解説していく。 神経線維とは神経線維とは以下を指す。軸索とそれを包む鞘を総合した名称でもって神経線維には、以下の種類があ ...この記事では神経細胞(ニューロン)についの各名称を記載していく。神経細胞とは神経細胞は、『細胞体』と『神経線維(=軸索+α)』から構成される。でもって、細胞体の末端にある『樹状突起』と、(別の神経細胞 ...個人病院で働いている理学療法士です。リハビリ(理学療法・作業療法)を含めた医療・介護関連の情報を発信していきます。※挑戦している副業(株式投資など)にも多少触れています。自身の知識整理を主目的にしていますが、他の方々の参考にもなれば幸いです。徒手理学療法(マニュアルセラピー)に関しては、姉妹サイト『個人病院で働いている理学療法士です。リハビリ(理学療法・作業療法)を含めた医療・介護関連の情報を発信していきます。※挑戦している副業(株式投資など)にも多少触れています。自身の知識整理を主目的にしていますが、他の方々の参考にもなれば幸いです。ブログの趣旨や始めるきっかけは「 私たちは、脳卒中片麻痺の患者さんに運動療法を通して、感覚入力、緊張や収縮の抑制と促通を行って、機能回復を図ろうとします。 そこで、運動療法を行うことでなぜ機能回復につながるのか簡単に神経生理学的に根拠を解説していきます。 脳卒中片麻痺者に対する運動療法の根拠 は、フィードフォワード制御が必要であることがわかってきた。このためには、制御対象(例えば腕)の ダイナミクスを表現する内部モデルが脳内に獲得されていなければならない。リハビリテーションが必 要な状態というのは、このような脳内の制御機構に何らかの異常を来したか、その制御� 「フィードフォワード」という言葉をご存知でしょうか?英語で書くと「feed forward」で、ビジネス用語として馴染み深い「フィードバック(feed back)」とは逆の意味を持ちます。実は今、フィードフォワードは人材育成の新たな手法として注目されています。 私たちは、脳卒中片麻痺の患者さんに運動療法を通して、感覚入力、緊張や収縮の抑制と促通を行って、機能回復を図ろうとします。そこで、運動療法を行うことでなぜ機能回復につながるのか簡単に神経生理学的に根拠を解説していきます。目次片麻痺の運動療法にかかわる治療技術は、PNF、ボバース、課題指向型アプローチなどさまざまな方法が提唱されており、セラピストの考え方や患者さんの状況に合わせて運用されています。提唱者ごとにコンセプトやアプローチ方法はさまざまですが、基盤にある治療の根拠は以下の4つになります。運動をすることで筋は収縮・弛緩され、筋ポンプ作用や代謝活動により筋への血流が促進されます。脳卒中により、梗塞での虚血、出血による浮腫での血管の圧迫での虚血などにより、虚血領域の細胞死を招きます。この細胞死を防ぐためには、ペナンブラ領域への血流の供給が不可欠になります。早期から運動療法を行うことは、運動を行う際には、その運動が効率的で合理的になるように調整がなされています。この調整は主に小脳で行われ、運動療法により、反復的に感覚情報が脊髄から小脳、大脳までおくられることで、この制御システムの再構築に関与するとされています。以前は中枢神経は一度障害されると回復しないというのが定説でした。しかし、最近では神経細胞の再生やシナプスの増加による脳の可塑性が認められる報告が増えてきました。可塑性とは学習や経験で脳細胞のシナプス結合が変化し、運動や環境に合理的に反応しようとする性質のことです。筋や関節には多くの受容器が存在しています。主な受容器として筋紡錘、ゴルジ腱器官、らせん終末などです。これらの運動の制御は相反神経抑制やⅠb抑制などの作用も関与しており、運動療法をとおして、筋や関節の受容器を刺激し、目的の行動を導きます。  僕が運営しているしているもう一つの一般の人向けの脳卒中情報サイトにて、片麻痺の自主トレの記事を書いていますので、ぜひそちらも参考にしてみてください!・・・・・・治療のこと、整理したい基礎的な知識をアウトプットする場にしています。また患者さんのリハビリ後の生活も知りたいので、介護・福祉の記事も書いていきます。©Copyright2020 フィードバック・フィードフォワードは以下の意味を持つ。~理学療法学事典より引用~ フィードバック(Feed back):フィードバックとは、ある目的のために反応を起こし(原因)、結果が目的と一致すれば終了し、一致しなければ修正するということ。すなわち、原因から導かれた結果を、原因に反映させること。 フィードフォワード(Feed forward):ある目標の達成のために結果から誤差を修正していくフィードバック制御に対して、ある目標の達成に向けて、常に変化する状況を情報として取り …